第216回:勘違いが人を動かすから学ぶ

読んだ本

はじめに:

アムステルダム空港の男子トイレには
他にはないとある特徴で、
清掃がより一層楽になったと言います。

その特徴とは、
小便器に小さな「ハエ」が描かれていること
です。

男性は「用を足す際」に
ハエの「ターゲット」に着目するので、
尿の飛び散りが激減し、
清掃に割く費用も削減できた。
というカラクリです。

「なんだそんな程度の事か」
と思う事勿れ。
空港側が仕掛けたのは
「きれいに使おう」
と声高に注意するのではなく、
便器にハエを描いただけです。
それだけで清掃費が削減できました。

人は、
それに抗おうとしてもできなかったり、
ちょっとした工夫で
行動を意図的に操ったり、
操られたりするものなのです。

人は操ろうと思っても操れません。
人を動かすためには、コツが必要です。
それは「勘違い」を刺激すること。
即ち、
ハウスフライ効果
を狙っていくのです。

本書の副題は
行動経済学の入門書
とされています。
本題名にある「勘違い」とは
バイアスやハウスフライ効果
を指しています。

バイアスとは
本能による強い思い込み
のようなもので、
ハウスフライ効果とは
この便器のイエバエ(ハウスフライ)
から連装される著者の造語です。
人間が知らぬ間に、
誰かに意図的に操られている現象
を指しており、本書の要となる言葉です。

現代は、
良いものを安く売る
だけでは商品は売れません。
人間の心理や本能を追求し、
それを反映したマーケティング
でなければ物は売れない時代であり、
結果、「行動経済学」なる学問が生まれ、
研究されたハウスフライ効果が、
うまく機能すると認識された今、
街の中にはハウスフライ効果が溢れています。

知らぬ間に、
不要なものを買わされていないか?
先延ばしを防ぐための政府の対策とは?
みんなが買うものはなぜ自分も欲しいのか?

世に溢れるハウスフライ効果に対し
私たちは抗うことができるのでしょうか。

本書を読めば、
ハウスフライ効果そのものの存在
に気づいたり、
人間のバイアスを逆手にとって
QOLを上げる事だってできるでしょう。

行動経済学者により解説された
ハウスフライ効果の実態とは?
学んだことをアウトプットします。

学んだこと:

自己欺瞞の生き物「人間」

まずご紹介したいバイアスは、
ダニングクルーガーバイアスです。

人間はそもそも
勘違いする生き物であり、
勘違いにより今日まで生き延びてきた
と言っても過言ではないのです。

クルーガーバイアスの典型的な実験は、
とあるグループに
「あなたの運転技術は
平均よりも上ですか下ですか?」
と質問する実験です。

回答者は圧倒的多数が、
私は平均よりも上だ
と答えます。
その数は実に80%以上とも言われ、
平均の50%を大きく上回ってしまいます。

謙虚に自分の技術は拙いものです。
と答えた人は1000人中たった200人
と聞けば、
どれだけの人間か「自分を過信しているか」
が浮き彫りとなります。
どんな集団に対してでも、
同じような結果が出るそうです。

クルーガーバイアスは、
色々なところで見られます。
例えば、
少しでも知識がある人間は、
自分の意見が誰よりも正しく、
全てを理解したように振る舞う
という実験結果もあります。

自分の職場を思い返すと
似たような上司や同僚が、
思い浮かぶのでは無いでしょうか。

反対に、
運転技術にせよ、
知識にせよ、
それを持っている人ほど、
謙虚で自信がない。
と本書では書かれています。

彼らは、
何を知らないか?を知っている
からです。

自己欺瞞より自己謙遜の方が
今の世の中では好まれそうですが、
なぜそもそも人間には
自己欺瞞に走る本能
が備わっているのか。
を考えてみると、
納得の事実がそこにはありました。

まずは、
人間が動物に近い存在だった頃、
人間はサバンナに暮らしており、
そこは混沌と混乱の世界でした。

いつ何時、どこで何が起こるか
どこから何が襲って来るか。
家や服や武器で自分を守ことができなかった
サバンナにおいて、
何も分からない中、
全ての事象に注目していたのでは
人間の祖先の脳は、
「パンク」してしまったでしょう。

そうならない様に、
何かの知識をつけたら、
それを利用して、
周りの事象を考えて捉えた方が
何も分からない世界で生きていく
ためには都合が良かったのです。

例えば自分の目の前で、
かつて人生では経験したことない、
テロやハイジャックが起きたら、
自分の経験から解決策がないかを
考えるはずです。

他にも、
自己欺瞞には大切な意味があります。
「群れ」での生活には欠かせなかったのです。

人間は群れの動物です。
群れの仲間に所属しているためには
自分が「優れた個体」であることを
周りに示さねばなりません。
その方が、
群れにも自分にも都合が良かったはず。

そのためには、
周りの人間に
自分を「偽らずに優秀だ」
と思わせねばなりません。
嘘はつかず、
自分を優秀だと思わせる方法とは
一体どんな方法でしょうか。

もちろん、
そこで役立つのが「自己欺瞞」です。
自分に知識が少ししかないのに
まるで専門家や自信家ように振る舞う。
これは自己意識下で
人を偽っている
と認識したのでは実行できません。

本当に自分のことを
運転技術が平均より上である
と「自覚」している必要があります。

自信のあるフリや
知識のあるフリをしていても
周りの人間は
よそよそしさや、後ろめたさ
を感じてしまい信用されません。

そこで人間の脳は、
少しの知識や技術で
まるで自分を専門家だと自覚させるよう
自己欺瞞を活用したのです。

人間が生き延びるために
自己欺瞞を利用してきた歴史
があるわけですから、
誰しも自己欺瞞からは
逃れられないのかも知れません。

しかし、
そうと分かれば自己謙遜が
習得した技術によるもの
だと聞いても納得がいきます。

実施には知識や技術のない自分が
とんでもないミスをしたって
それは自己欺瞞の悪戯に過ぎません。

そんな時は、
失敗に落ち込むのではなく、
自己欺瞞の自分を、
どこか可愛らしいと
クスッと笑ってみた方が
下手に落ち込まずに済むかも知れません。

人は想像の痛みに弱い

人は痛みに弱いです。
物理的、生理的な痛みをもちろんのこと、
精神的な痛み
に対しても人はめっぽう弱いことが分かっています。

一見当たり前のことに聞こえますが、
自分が思っている以上に
人間は痛みに弱く、
それは例えば「お金を支払う」こと
からも痛みを感じてしまうほどです。

レジでお金を払う時、
人間の脳では、
実際の痛みを感じる部位「島皮質」
と同じ場所が活性化しているのです。

人の脳は、
得る喜びより、
失う痛みの方がでかい
と感じるようにできています。
損失回避
と呼ばれるハウスフライ効果です。

この想像の痛みから逃げるためなら
人はなんだってします。

例えば、
コンビニの有料レジ袋
を見てみましょう。
かつて、
マイバックを使えば
何らかのポイントをもらえる
つまり努力によって何かを「得られる」
という取組はされていたそうです。
しかし、
消費者からは見向きもされませんでした。
その後、
マイバックを使わないと
「自分のお金が減る」
つまり努力しないと「失う」
という取組が変わった途端、
マイバッグを使う人は激増しました。

人は損失を回避し、
現状を維持したい。
との衝動に駆られる生き物なのです。

プロのサッカー選手でも
損失回避の作用が影響し、
PK戦において、
キーパーの「取りやすい場所」に
シュートを打つことがあります。
どういう事でしょうか。

キーパーの周辺にシュートすると、
ゴールの可能性は50%と言われています。
キーパーは左右どちらかにボールが来る
と予測して体を動かすからです。

シュートの確率を少しでも上げよう
と思うなら「枠外」を狙う必要があります。
キーパーのより高い場所を狙うと
シュートはより入りやすくなります。
しかし、枠外を狙うのは
単純に難しいとされており
枠外を狙い、枠外に外してしまうと
ゴールの可能性は0%です。

枠外に外す行為をファンは許しません。
まだ50%の確率なら「しょうがない」
と判断してくれますが、
果敢にも確率を上げようとした選手ほど
外した時に、
ファンからガッカリされてしまいます。
そのため、
わざわざ枠外を狙うというリスクを取らず、
キーパー周辺に打つシュートで
妥協してしまいます。
このように、
プロの選手ですら、
保身のためにリスクを取らない。
選択をするのです。

人は「ブランド品」を好むのも
痛みを避けるために他なりません。
皆が買っている物なら間違いがない。
売れている物なら価値がある。
と下手に自らが選択したもので後悔するより
皆が買っているものを自分も手にいれ、
痛みを和らげようとします。
人々がこぞってブランド品を買うのは
後悔の保険料を支払っている。
という言葉まであります。

これほどまでに痛みを避けたい人間ですが
人生において、
リスクを取らなければならない時
も必ず訪れます。
その時はどうすればいいのか。

まずは決定は先に下した方が
後悔は少なくすみそうです。
人間の脳は、
リスクが50%ある
と思考するより、
リスクがあるかどうかすら分からない
状況が苦手だからです。

何かに着手して後悔した方が、
行動を起こさなかった時よりは
後悔が少ない。
この言葉は覚えておいても損はないでしょう。

欲しいけど、今は動きたくない

人は
時間やタイミング
関するハウスフライ効果に
特に弱いようです。
人は時制を加味した未来の想像が
とても苦手なようです。

例えば、
今日は面倒くさいから明日やろう。
と問題を1日でも先延ばしにすると、
更に手をつけるのが難しくなる
事に気づけません。

時間がないと判断力が下がる
という脳の特性を利用され、
レジ付近では客が足早になる
ことを知っている企業側は、
レジの周りに「高級お菓子」を
並べていたりします。

ピークエンドの法則を使えば、
休暇をもっと楽しくできるかもしれません。
この法則によれば、
人は気持ちが昂った時(ピーク)や
物事の終わり際(エンド)の事をよく覚えている。
という事なので、
連休の最終日に、
掃除や草むしりなど
面倒臭い作業を組み込んでしまうと、
連休それ自体が「楽しくないもの」
に変わってしまいます。

直腸検査などは、
検査を受けるのが嫌だと思われないように、
検査の後半は、
直腸内のカメラをあまり動かさずに
不快感なく検査を終わってもらう
というハウスフライ効果が使われています。

先延ばしの問題は
万民の悩みではないでしょうか。
いつか始めようと思っている
英会話やダイエット。
その年の最後の最後まで取っておく
年賀状作成や確定申告のタスク。
手をつければあっという間なのに
食指が伸びない悩みは後を断ちません。

本書では
先延ばしへのアプローチ方法
もたくさん記載されています。

例えば『誘引バンドル』は、
私がお気に入りの先延ばし対策です。
やる気の人質とも呼ばれており、
方法は簡単です。
やりたくない事と、
やりたい事を結束(バンドル)する。
だけです。

例えば、
ジムのロッカーに
ハリーポッターのオーディオブックを
持って行きます。
そしてジムでしか聞けないようにする。
ジムとハリーポッターをバンドルするのです。

この方法を使うと、
今まで嫌悪感を抱いていた物事が
「楽しいこと」にすり替わり、
先延ばしが減ることが分かっています。

他にも、
面倒な事務作業をする時だけは、
大好きなスタバに行って良い。
や、
ステッパーを使って歩きながらだったら、
YouTubeを見てよし。
など色々考えるだけでも楽しいです。

次に、
一色刷りのスケジュール帳も
先延ばしには効果的です。

スケジュール帳の中には、
土日や休日、祝日
が赤色だったり他の色で
区分けされているものが多いです。

この場合、
人間の目は、
色付けされている日を特別視してしまう。
という特性があります。
土日になればきっと大丈夫
などと根拠のない理由をつけて
今やるべきことを先延ばししてしまうのです。

その対策はいたってシンプルで、
上述の通り、
土日であっても休日であっても、
全て同じ色の一色刷りされている
スケジュール帳を使いましょう。

すると、
例え土日や休日であっても、
それらは「今日の延長線上にあるもの」
と脳が認識し、
計画性が増すと言われています。
スケジュール帳を買い替えるだけで
先延ばしが減るならしめたものです。

また、自分一人で、
先延ばしに対抗するのが難しいのなら、
少しだけ友人に手伝ってもらいましょう。
と言っても、
友人に何かしてもらう分けではありません。
ただ「聞いてもらうだけ」です。

これは、
コミットする(目標を具体的にする)
というメソッドです。

もし計画倒れした時に、
友人にがっかりされること
を恐れるため、
ちゃんと先延ばしせずに、
自分は友人に宣言した事を
実行に移せるようになります。

さらに、
自分が目標を立てて、
それを数量化できるなら、
毎日、記録をして、
目に見える場所に張り出すと良いでしょう。

ラジオ体操カードのように、
毎日の進捗が分かりやすく目に入ると、
自分にコミットしていることが
物理的にも達成されて行きます。
モチベーションが保たれて、
目標達成に大いに役に立つでしょう。

おわりに:

ハウスフライ効果。
イエバエの効果などと聞くと、
どこかシニカルな笑いに繋がり、
すぐに覚えてしまいました。

このネーミング自体も、
ハウスフライ効果を
利用したものなのかも知れません。

会社のマーケターは、
これらのハウスフライ効果を
自由自在に使い、
私たちを操ってきます。

スーパーで買い物をする時、
先に青果商品が必ず並んでいるのには
理由があります。

先に青果品を買えば、
「野菜や果物などの体に良いものを買ったのだから、
ちょっとくらいお菓子を買っても良いよね」
との心理が働き、
その先の売り場で、
商品を手に取りやすくなるのです。

その逆手を取るなら、
次にスーパーに行ったら、
お菓子コーナーから買い物を
始めると無駄使いは減るかも知れません。
少なくても
ハウスフライ効果は発生しにくくなります。

本書を読み終わった今は、
街中のどこにこの効果が隠れているか
自分は知らぬ間に操られていないか
自分で自分を操ることはできるかなど、
の視点を持つことで、
散歩ひとつとっても
楽しみが増えた感じがします。

膨大な知識群ですので、
一回では中々覚えることは難しいですが、
少しづつ自分の周りで実験を繰り返して、
楽しみながら効果を体験するのも一興です。

大樋町

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大樋町

初めまして。
大樋町と申します。
「おおひまち」と読みます。
北陸地方住む、アラフォーの読書愛好家です。
日頃は通訳などを生業としております。
良い本は心の友。
私の友人たち(愛読書)から学んだことをアウトプットする場としてブログを書いております。
毎週、月曜日にブログを更新中。(少ないw)
ありがたい事に、
読者様が増えてきたから身を引き締めねばw
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